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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)15561号 判決 1992年2月14日

東京都千代田区神田神保町二丁目二一番地

第一事件原告、第二事件反訴被告、第三事件被告

株式会社恭商

(以下「原告」という。)

(旧商号 株式会社東商トツプス本社)

右代表者代表取締役

中野恭一

右訴訟代理人弁護士

湯浅徹志

右訴訟復代理人弁護士

福田博行

東京都千代田区神田須田町一丁目五番地

第一事件被告、第二事件反訴原告、第三事件原告

ジヤパンペツト商事株式会社

(以下「被告」という。)

右代表者代表取締役

勝家章

東京都町田市成瀬台二丁目一二番二二号

第三事件原告(以下「被告」という。)

勝家章

右両名訴訟代理人弁護士

建入則久

主文

一  被告ジヤパンペツト商事株式会社は、原告に対し、別紙目録(一)記載の商標権について、特許庁昭和六三年九月二六日受付第〇〇七八九六号の商標権移転登録の抹消登録手続をせよ。

二  被告ジヤパンペツト商事株式会社は、猫のトイレ用砂に別紙目録(二)記載の標章を附し、又はこれを附した猫のトイレ用砂を販売してはならない。

三  原告は、被告ジヤパンペツト商事株式会社に対し、三七〇〇万円及びこれに対する平成二年九月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告ジヤパンペツト商事株式会社の第二事件の反訴請求及び第三事件のその余の請求並びに被告勝家章の第三事件の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告に生じた費用の七分の一と被告勝家章に生じた費用を被告勝家章の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告ジヤパンペツト商事株式会社に生じた費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告ジヤパンペツト商事株式会社の負担とする。

六  この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 主文第一項、二項と同旨

2 訴訟費用は、被告ジヤパンペツト商事株式会社(以下「被告会社」という。)の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

(第二事件について)

一  反訴請求の趣旨

1 被告会社が、別紙目録(一)記載の商標権(以下「本件商標権」という。)を有することを確認する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 被告会社の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は、被告会社の負担とする。

(第三事件について)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告勝家章(以下「被告勝家」という。)に対し、被告会社の株式二〇〇株(以下「本件株式」という。)の株券(二〇株券一〇枚、Aえ〇〇〇〇六号ないし〇〇〇一五号)(以下「本件株券」という。)を引き渡せ。

2 原告は、被告会社に対し、三七〇〇万円及びこれに対する昭和六三年九月九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、原告の負担とする。

4 右1及び2について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は、被告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件について)

一  請求の原因

1 原告は、昭和四九年九月一八日、本件商標権に係る商標登録出願をし、同五五年七月三一日、その商標権設定の登録を経由した。

2 本件商標権について、被告会社のため、昭和六三年七月二六日付譲渡を原因とする主文一項記載の移転登録(以下「本件移転登録」という。)がされている。

3 被告会社は、本件商標権の指定商品の範囲に属する猫のトイレ用砂(以下「被告商品」という。)に本件商標権の登録商標と同一の別紙目録(二)記載の標章(以下「本件標章」という。)を附し、また、これを附した被告商品を販売している。

4 よつて、原告は、被告会社に対し、本件商標権に基づき、本件移転登録の抹消登録手続と被告商品に本件標章を使用することの差止めを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3の事実は認める。

三  抗弁

1 譲渡

(一) 原告は、昭和六三年七月二六日、被告らに対し、本件商標権、本件株券に表章された本件株式及び米国アイアムズ社のペツトフードの輸入販売権(以下「本件商標権等」という。)を一括して代金六〇〇〇万円で譲渡した(以下「本件譲渡契約」という。)。

(二) 被告らは、昭和六三年九月六日、被告らが原告から譲渡を受けた本件商標権等について、被告会社に本件商標権及び米国アイアムズ社のベツトフードの輸入販売権を帰属させ、また、被告勝家に本件株式を帰属させる旨を合意した。

(三) 被告会社は、本件譲渡契約に基づき、本件商標権について本件移転登録を経由した。

2 通常使用権の許諾

原告は、昭和六一年二月頃、被告会社に対し、本件商標権について通常使用権を許諾した(以下「本件許諾契約」という。)。

3 権利の濫用

(一) 原告は、昭和六一年一〇月一四日、被告勝家に対し平成元年一二月を経過したときは、同被告又は同被告が指定する者に対して本件商標権及び米国アイアムズ社のペツトフードの輸入販売権を無償で譲り渡す旨並びに同被告の承諾なくして、第三者に対して本件商標権を処分しない旨を約した。

(二) 被告勝家は、平成元年一一月二九日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、右(一)の本件商標権及び米国アイアムズ社のペツトフードの輪入販売権の譲渡を受ける者として被告会社を指定し、被告会社は、同期日において、原告に対し、その利益を享受する旨の意思表示をした。

(三)(1) したがつて、仮に本件移転登録が抹消されたとしても、原告は、右(一)の合意に基づき、本件商標権を第三者に処分することができず、また、被告会社に対し、本件商標権について改めて移転登録手続をしなければならないのであるから、原告が被告会社に対して本件移転登録の抹消登録手続を求めることについての経済的利益はなく、かえつて、これを認めることはいたずらに権利関係を複雑にするだけである。そうすると、原告が本件移転登録の抹消登録手続を求めることは、権利の濫用に当たり、許されないというべきである。

(2) また、右(1)のとおり、原告は、右(一)の合意に基づき、被告会社に対し、本件商標権について移転登録手続をしなければならないのであるから、原告の有する本件商標権は名目的な権利にすぎないものである。そうすると、原告が被告会社による本件標章の使用の差止めを求めることは、権利の濫用に当たり、許されないというべきである。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は否認する。

2 抗弁2の事実は認める。

3 抗弁3(一)及び(三)の事実は否認する。

五  再抗弁(解除)

1 被告会社は、抗弁1(一)の事実が存在しないのに、本件商標権について本件移転登録を経由した。

2 被告会社の右1の行為は、本件許諾契約に基づき本件商標権の登録商標の使用を許された当事者に要求される最低限の義務に違反し、かつ、本件許諾契約の基礎にある当事者間の信頼関係を破壊するものであるから、原告は、催告を要しないで、本件許諾契約を解除することができる。

3 原告は、被告会社に対し、昭和六三年九月二二日に到達した書面によつて、本件許諾契約を解除する旨の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否

1 再抗弁1のうち、被告会社が本件商標権について本件移転登録を経由したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 再抗弁2の事実は否認する。

3 再抗弁3の事実は認める。

七  再々抗弁(権利の濫用)

1(一) 原告は、昭和六一年一〇月一四日、被告勝家との間で、次のような合意をした。

(1) 被告勝家は、原告が、同被告及びその妻が共有する東京都町田市成瀬台所在の土地建物について原告の株式会社東食に対する債務を担保するために設定されている極度額一億円の根抵当権を消滅させるのと引き換えに、原告が銀行から新たに融資を受けることができるようにするため、右土地建物について、銀行のため極度額を一億円を超えない限度とする根抵当権を設定する。

(2) 原告は、被告勝家及びその妻が共有する東京都豊島区北大塚所在の建物について、原告の株式会社第一相互銀行(以下「第一相互銀行」という。)に対する債務を担保するために設定されている極度額一〇〇〇万円及び一五〇〇万円の各根抵当権を消滅させる。

(3) 原告は、被告会社から原告に支払われる本件許諾契約に基づく使用許諾料等をもつて、銀行からの右(1)の借入金の弁済に充てる。

(二) 被告勝家は、昭和六二年四月一〇日、原告が右(一)(1)の根抵当権を消滅させたことと引き換えに、右(一)(1)の土地建物について原告の第一相互銀行に対する債務を担保するために極度額を七二〇〇万円とする根抵当権を設定し、原告は、これに伴い、同銀行から、六〇〇〇万円を、同年八月から二〇か月間は毎月一五〇万円、その後の一六か月間は毎月二〇〇万円を弁済することを約して、これを借り入れた。

また、被告会社は、原告に対し、本件許諾契約に基づく使用許諾料等を同六三年七月二六日分まで支払つていた。

(三) しかるに、原告は、右(一)(2)の各根抵当権を消滅させず、また、右(二)の第一相互銀行からの六〇〇〇万円の借入金についても、始めの四回分を弁済しただけで、その後の弁済をしていない。

2 右1の事実に鑑みれば、原告が、本件許諾契約について、被告会社の行為が右契約の基礎にある当事者間の信頼関係を破壊するものであると主張して、これを解除することは、権利の濫用に当たり、許されないものというべきである。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁のうち、1(二)前段の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(第二事件について)

一  反訴請求の原因

1 第一事件請求の原因1のとおり

2 第一事件抗弁1のとおり

3 原告は、被告会社に対し、原告が本件商標権を有すると主張している。

4 よつて、被告会社は、原告に対し、被告会社が本件商標権を有することの確認を求める。

二  反訴請求の原因に対する認否

反訴請求の原因1及び3の事実は認めるが、2の事実は否認する。

(第三事件について)

一  請求の原因

1 被告勝家

(一) 第一事件抗弁1(一)、(二)のとおり

(二) 仮に(一)が認められないとしても、

(1) 原告は、昭和六一年一〇月一四日、被告勝家に対し、原告が同被告に対して本件株式を代金一〇〇〇万円で売り渡す旨の契約を成立させるについて、予約完結権を授与した。

(2) 被告勝家は、原告に対し、昭和六三年九月三〇日に到達した書面によつて、右予約を完結する旨の意思表示をした。

2 被告会社

(一) 第一相互銀行は、原告に対し、昭和六三年四月二六日に五四〇〇万円、同月三〇日に二億四八七〇万円をそれぞれ貸し付けた。

(二) 被告勝家は、第一相互銀行に対し、原告の同銀行に対する右(一)の各貸金債務を連帯保証した(以下「本件保証」という。)。

(三)(1) 被告勝家は、昭和六三年九月八日、第一相互銀行に対し、本件保証債務の履行として、合計九七〇〇万円を支払い、右九七〇〇万円は、同日、前(一)の同年四月二六日付五四〇〇万円の貸金債務の元本全部及び同月三〇日付二億四八七〇万円の貸金債務の元本のうち四三〇〇万円の弁済に充当された。

(2) 仮に右(1)が認められないとしても、被告勝家は、昭和六三年九月八日、第一相互銀行に対し、本件保証債務の履行として、合計九七〇〇万円を支払い、右九七〇〇万円は、平成元年四月二八日、前(一)の昭和六三年四月二六日付五四〇〇万円の貸金債務の元本全部及び同月三〇日付二億四八七〇万円の貸金債務の元本のうち四三〇〇万円の弁済に充当された。

(四) 原告は、被告勝家が、第一相互銀行に対し、本件保証債務の履行として、右(三)のとおり合計九七〇〇万円を弁済することを承諾した。

(五) 被告勝家は、昭和六三年九月九日、被告会社に対し、原告に対する合計九七〇〇万円のうちの八五〇〇万円の求償権を譲渡し、原告に対し、同月二四日に到達した書面によつて、その旨通知した。

(六) 被告会社は、原告に対し、第三事件の訴状の送達によつて、右求償権八五〇〇万円のうち三七〇〇万円を支払うよう催告した。

3 よつて、原告に対し、被告勝家は、本件譲渡契約に基づき、本件株式を表章する本件株券の引渡しを求め、被告会社は、保証人の求償権に基づき、八五〇〇万円のうち三七〇〇万円及びこれに対する弁済をした日の翌日である昭和六三年九月九日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1の事実は否認する。

2(一) 請求の原因2(一)の事実は認める。なお、昭和六三年四月二六日付五四〇〇万円の貸金債務の弁済期は、同六五年(平成二年)八月三一日であり、また、昭和六三年四月三〇日付二億四八七〇万円の貸金債務の弁済期は、同六四年(平成元年)一月二七日である。

(二) 請求の原因2(二)の事実は認める。

(三)(1) 請求の原因2(三)(1)の事実は否認する。被告勝家が、第一相互銀行に対し、本件保証債務の履行として、合計九七〇〇万円を弁済したのは、平成元年四月二八日である。

(2) 請求の原因2(三)(2)の事実は認める。

(四) 請求の原因2(四)の事実は否認する。

(五) 請求の原因2(五)のうち、被告勝家が、原告に対し、同月二四日に到達した書面によつて、譲渡の通知をしたことは認めるが、その余の事実は知らない。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  第一事件について

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、抗弁1の事実について判断する。

(一)  被告本人兼被告会社代表者勝家章尋問の結果中には、抗弁1(一)の事実に符合する供述部分があり、また、乙第一号証(原告作成名義の被告会社に対する昭和六三年七月二六日付の本件商標権の譲渡証)及び乙第二号証(原告作成名義の被告会社に対する同日付の本件商標権の移転登録申請についての単独申請承諾書)の記載は、抗弁1(一)の事実中、本件商標権の譲渡の事実を一応裏付けるものであるといえる。

(二)(1)  抗弁1(一)の事実に符合する被告本人兼被告会社代表者勝家章の右供述部分の要旨は、原告は、昭和六三年六月二二日頃、被告勝家に対し、原告において、同被告及びその妻が共有する不動産につき、原告の第一相互銀行に対する債務を担保するために設定されている根抵当権を消滅させるので、被告らにおいて本件商標権等を一括して代金六〇〇〇万円で譲り受けるよう申入れをし、被告勝家は、同年七月二六日、原告に対し、原告の右申入れを承諾する旨回答をしたというものである。

(2)  そして、被告本人兼被告会社代表者勝家章尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二六号証、同尋問及び原告代表者中野恭一尋問の各結果によれば、被告会社の取締役会は、同月七日、原告から、「諸権利の売買代金は、総額六〇〇〇万円とする。株式会社東商トツプス本社は、売買代金六〇〇〇万円をもつて、勝家章が担保提供した不動産の根抵当権抹消手続きを実行する。」との内容で本件商標権等を一括して売却するとの申入れがあつた旨の被告勝家の報告を受けて、これを承諾する旨議決し、被告勝家は、同月二六日、原告に対し、その旨回答したことが認められるところ、右認定の事実は、被告本人兼被告会社代表者勝家章の右供述部分の要旨の内容に沿うものである。

(3)  しかしながら、他方、成立に争いのない甲第三号証の一、二、第五号証 ないし第七号証、第八号証の一、三及び四、第一〇号証の一、二、乙第六号証、第七号証、第九号証、第一四号証、第一五号証、第一六号証の一、二、原告代表者中野恭一の尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第九号証及び同尋問の結果によれは、(ア)被告勝家は、昭和六三年当時、同被告及びその妻が共有する東京都豊島区北大塚所在の建物について、原告の第一相互銀行に対する債務を担保するために極度額を一〇〇〇万円及び一五〇〇万円(債権の範囲 相互銀行取引、手形債権、小切手債権)とする各根抵当権を設定しており、また、同被告及びその妻が共有する東京都町田市成瀬台所在の土地建物について、同銀行のため極度額を七二〇〇万円(債権の範囲 相互銀行取引、手形債権、小切手債権)とする根抵当権を設定していたこと、(イ)原告は、右(2)に認定した被告勝家の同年七月二六日付回答について、同年八月二日付書簡で、同被告に対し、右回答の内容が原告の負担で右各根抵当権を消滅させるというものであることを批難し、従前の本件商標権等の譲渡に関する交渉を打ち切り白紙にする旨を告げるとともに、同被告の負担で右各根抵当権を消滅することを前提に、新提案として、被告会社において本件商標権を代金三〇〇〇万円、米国アイアムズ社のペツトフードの輸入販売権を代金五〇〇万円で、被告勝家において本件株式を代金一五〇〇万円でそれぞれ譲り受けるよう申入れをしたこと、(ウ)被告勝家は、同月二七日付書簡で、原告に対し、本件株式の代金だけでなく、本件商標権及び米国アイアムズ社のペットフードの輸入販売権の代金についても自ら工面しなければならないので、原告が右各根抵当権を消滅してくれるのであれば、その物件を担保にして銀行から新たに融資を受けることができるので、譲渡代金として九五〇〇万円までは支払う準備がある旨回答したこと、(エ)その後、原告から、消滅させる根抵当権の範囲についての問い合せがあつたので、被告勝家は、同月三一日付書簡で、原告に対し、譲渡代金九五〇〇万円で東京都町田市成瀬台所在の土地建物及び東京都豊島区北大塚所在の建物に設定されている根抵当権を消滅してもらいたいが、仮にそれができないのであれば、代金七〇〇〇万円で東京都町田市成瀬台所在の土地建物に設定されている根抵当権を消滅してもらいたいので、このときには、本件商標権等のうちどの権利を売却してもらえるのか返答してくれるよう回答したこと、(オ)原告は、同年九月一日付書簡で、被告勝家に対し、同年八月二日申入れの新提案による解決しかない旨返答したこと、(カ)被告勝家は、同年九月八日、第一相互銀行に対し、原告の同銀行に対する債務について、右各根抵当権の極度額の合計額に相当する九七〇〇万円を支払い、同銀行は、右各根抵当権を放棄したこと、(キ)被告勝家は、同日付書簡で、原告に対し、右各根抵当権を消滅させたので、二年間以上本件許諾契約に基づく使用許諾料等を原告に支払つていたことを勘案のうえ、本件商標権等の譲渡代金を決定してくれるよう回答したこと、(ク)ところで、同年八月二五日付通産省公報には、譲渡人原告、譲受人被告会社とする本件商標権の移転に関する公告が掲載されていたところ、これを知つた原告は、被告勝家に対し、同年九月一六日付書簡で、右公告が掲載されていることについて抗議し、更に、同月一九日に到達した内容証明郵便によつて、同様の抗議をしたこと、(ケ)被告らは、原告に対し、同月二四日に到達した内容証明郵便によつて、本件譲渡契約の成立を主張したこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、原告は、被告勝家の同年七月二六日付回答に対し、同年八月二日、直ちに、右回答の内容が原告の負担で右各根抵当権を消滅させるというものであることを批難し、従前の本件商標権等の譲渡に関する交渉を打ち切り白紙にする旨を告げるとともに、新たに、同被告の負担で右各根抵当権を消滅することを前提に、被告らにおいて本件商標権等を代金合計五〇〇〇万円で譲り受けるよう申入れをしているのであるから、原告が、同年六月二二日頃、被告勝家に対し、原告において右各根抵当権を消滅させることを前提に、被告らにおいて本件商標権等を一括して代金六〇〇〇万円で譲り受けるように申入れをしていたものであるということは考え難いことである。しかも、右認定の事実によれば、原告の同年八月二日付申入れに対し、被告勝家は、原告において右各根抵当権を消滅させることを前提に、その物件を担保にして銀行から新たに融資を受けることができる金額で、本件商標権等を買い受けることを求めているのであつて、原告と被告勝家は、同日後においても、右各根抵当権の処理をめぐつて、代金額や譲渡の目的たる権利の範囲についての交渉を継続しているのである。そうすると、仮に本件譲渡契約が成立していたというのであれば、右のとおり、原告と被告勝家が、同日後においても、譲渡契約の要素である代金額や譲渡の目的たる権利の範囲についての交渉を継続していることは、極めて不自然であるといわざるをえない。この点について、被告本人兼被告会社代表者勝家章は、その尋問中において、本件譲渡契約は同年七月二六日に成立したが、同年八月二日、原告から新たな申入れがあつたので、代金額を多少上乗せするなどして改めて合意ができるのであれば、それでも差し支えないと考えて交渉したとの趣旨の供述をする。しかしながら、被告勝家が、原告との交渉を継続している間に、原告に対し、本件譲渡契約が成立したことについて言及したことを認めるに足りる証拠はなく、このことと前認定の事実によれば、被告勝家は、原告から、通産省公報に本件商標権の移転に関する公告が掲載されていたことについて抗議を受けて、初めて、本件譲渡契約の成立を主張したものと認めざるをえない。そして、前認定の事実によれば、原告は、被告勝家の同年七月二六日付回答に対して、直ちに、従前の本件商標権等の譲渡に関する交渉を打ち切り白紙にする旨を告げているのであるから、仮に本件譲渡契約が成立しているというのであれば、被告勝家が、右のとおり、原告から抗議を受けて、初めて、本件譲渡契約の成立を主張したのは、不自然であり、被告本人兼被告会社代表者勝家章の右供述による説明には無理があるといわざるをえない。

(4)  右(3)に認定判断したところに鑑みれば、抗弁1の事実に符合する被告本人兼被告会社代表者勝家章の前記供述部分は、到底これを採用することはできす、また前(2)に認定した事実も、被告勝家の所為に係るものであるから、これのみをもつて直ちに右供述を裏付けるものということもできない。

(三)  また、被告本人兼被告会社代表者勝家章尋問の結果によれば、乙第一号証、第二号証の成立及びその原本の存在が認められるところ、乙第一号証の譲渡人欄及び乙第二号証の登録義務者欄の原告の各記名押印の印影が原告の記名印及び印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右各印影は、原告の代表取締役である中野の意思に基づいて顕出されたものであると推定される。しかしながら、右乙号各証の原本が、原告の代表取締役である中野の意思に基づいて作成されたものであることについては、これを裏付けるに足りる的確な証拠がないばかりか、かえつて、原告代表者中野恭一の尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一及び三ないし五、第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二及び同尋問の結果によれば、(ア)原告は、登録番号第一八四五五〇八号、第一八六七二六五号及び第一九六九九一三号の各商標権を有していたものであるところ、同六二年一二月頃、米国アイアムズ社との間で、同社に対し右各商標権を譲り渡す旨の契約を締結したこと、(イ)被告勝家は、右契約について、原告側の窓口となつて担当していたこと、(ウ)原告は、同六三年四月頃、被告勝家から、商標登録番号欄、指定商品および商品の区分欄、年月日欄及び当事者欄が空白になつている乙第一号証と同一の譲渡証並びに乙第二号証と同一の単独申請承諾書の交付を受けていたところ、同年六月二二日頃、被告勝家から、譲渡証及び単独申請承諾書その他右三個の商標権の移転登録に必要な書類を米国アイアムズ社の代理人に交付するので、これらの書類を同被告に渡すよう求められたこと、(エ)中野は、譲渡証三通の当事者の譲渡人欄及び単独申請承諾書三通の当事者の登録義務者欄に記名押印したうえ、同月二五日頃、被告勝家に対し、右譲渡証及び単独申請承諾書各三通とその他右各商標権の移転登録に必要な書類を渡したこと、(オ)しかしながら、被告勝家は、同月二七日頃、米国アイアムズ社の代理人に対し、右譲渡証及び単独申請承諾書各一通とその他商標権の移転登録に必要な書類を交付したにすぎないことが認められるところ、右認定の事実に前(二)(3)に認定判断したところを合わせ考えると、被告勝家は、中野から、米国アイアムズ社の代理人に交付するために渡された原告の各記名押印のある譲渡証及び単独申請承諾書各三通のうちの一通を利用して、その空欄を補充して乙第一号証、第二号証の原本を作成したものと認めるほかはない。

そうであれば、乙第一号証、第二号証の原本は、原告の代表取締役である中野の意思に基づかずに作成されたものであるから、右乙号各証は、これを採用することはできない。

(四)  右(二)、(三)のとおり、抗弁1(一)の事実に符合する被告本人兼被告会社代表者勝家章の前記供述部分並びに乙第一号証及び乙第二号証は、いずれもこれを採用することはできず、他に抗弁1(一)の事実を認めるに足りる証拠もなく、かえつて、右(二)、(三)に認定判断したところによれば、本件醸渡契約は成立しなかつたものと認められる。

(五)  そうすると、抗弁1は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

3(一)  抗弁2の事実は当事者間に争いがない。

(二)(1)  再抗弁1のうち、被告会社が本件商標権について本件移転登録を経由したことは当事者間に争いがないところ、本件譲渡契約が成立しなかつたことは、右2に認定したとおりである。

(2)  そこで、再抗弁2について判断するに、被告会社は、本件許諾契約で定めた範囲内において、指定商品について本件商標権の登録商標の使用をする権利を有するにとどまり、その反面、少なくとも、本件許諾契約が終了したときには、許諾者である原告において、許諾契約締結前と同様、本件商標権の権利者として、本件商標権の譲渡その他の行為をすることができるよう原状に復する義務を有するものであつて、これに反して本件商標権を譲渡するなどの行為をすることはできないものというべきであるから、被告会社の右(1)の行為は、本件許諾契約の要素をなす義務に反するものであり、かつ、その行為それ自体で、当事者相互の信頼関係を裏切り、本件許諾契約の存続を著しく困難ならしめる不信行為であるものというほかはない。そうすると、原告は、催告を要しないで本件許諾契約を解除することができるものである。

(3)  再抗弁3の事実は当事者間に争いがない。

(三)  再々抗弁についてみるに、仮に再々抗弁1の事実が認められたとしても、右事実によつて、被告会社の右(二)(1)の行為が、相当なものとして是認されることになるわけではないのであつて、原告において本件許諾契約を解除することが、権利の濫用に当たるものということはできない。したがつて、再々抗弁は、理由がない。

4(一)  抗弁3について判断するに、乙第五号証(原告作成名義の昭和六一年一〇月一四日付の覚書)は、抗弁3(一)の事実に符合するものであり、また、被告本人兼被告会社代表者勝家章の尋問の結果中には、抗弁3(一)の事実に符合する供述部分がある。

(二)  ところで、乙第五号証の原告の記名押印の印影が原告の記名印及び印章によるものであることは当事者間に争いがないところ、同号証について、被告本人兼被告会社代表者勝家章は、その尋問において、乙第四号証の記載に基づいて、中野との間で合意した事項を記載し、昭和六一年一〇月一四日、中野に対し、これを示してその内容を確認してもらつたうえで、中野に原告の記名押印をしてもらい、これを作成した旨供述する。しかしながら、被告本人兼被告会社代表者勝家章の右供述を裏付けるに足りる的確な証拠がないばかりか、かえつて、例えば、乙第五号証には、「3甲(注・原告)は、……従来から甲のために乙(注・被告勝家)夫妻が提供してきた乙夫妻の所有する豊島区北大塚三丁目二一番地一の建物……に設定された甲を債務者とする第一相互銀行による昭和五四年一〇月二日付極度額金一五〇〇万円の根抵当権並びに昭和五五年八月四日付極度額金一〇〇〇万円の根抵当権を共に全額解除のうえ之を乙夫妻に返却する。」との記載があるところ、前掲乙第六号証及び原告代表者中野恭一尋問の結果によれば、原告は、右各根抵当権を消滅させなかつたことが認められるにもかかわらず、被告勝家が、原告に対し、乙第五号証に基づいて右各根抵当権の消滅を求めたことを認めるに足りる証拠がないこと、また、「6甲は、丙(注・被告会社)に対して出資せる丙の株券を、乙の金銭手当のつき次第いつでも乙の要求に従がい全額額面価格にて乙に譲渡し、……。7第五条記載の丙から甲へのロイヤリテイー及び輸入手数料等の支払いは、昭和六二年一月より起算して満三ヶ年で之を打切り、甲は、当該登録商標の所有権およびその営業権並びにアイアムの輸入販売権のすべてを、乙またはその指定する者へ無条件で之を譲渡する。」との記載があるところ、原告と被告勝家が本件商標権等の譲渡について交渉したときに、同被告が、原告に対し、同号証があることについて言及したことを認めるに足りる証拠がないことに照らすと、仮に同号証が被告本人兼被告会社代表者勝家章の右供述のとおり作成されたというのであれば、被告勝家は、原告に対し、同号証に基づいて右各根抵当権の消滅を求めたり、また、本件商標権等の譲渡について交渉した際に、同号証があることについて言及したりするのが自然であるのに、これらの事実を認めるに足りる証拠かないのであるから、同号証の作成に関する被告本人兼被告会社代表者勝家章の右供述は、にわかに採用することができないものといわざるをえない。そして、このことに加えて、原告代表者中野恭一尋問の結果によれば、中野は、原告の記名印及び印章の管理をそれほど厳重には行つていなかつたこと、被告勝家は、同六一年二月まで原告取締役の地位にあつたものであり、その後も、原告を訪れていたのであつて、原告の従業員等をして書類に原告の記名印及び印章を押捺させることも可能であつたことが認められることを合わせ考えると、同号証の原告の記名押印の印影が原告の記名印及び印章によるものであることから、右印影が、原告の代表取締役である中野の意思に基づいて顕出されたものであると認めるには足りないというほかはない。

そうすると、同号証は、真正に成立したものと認めることはできないから、これを採用することができない。

(三)  また、被告本人兼被告会社代表者勝家章の右(一)の供述部分は、同号証の記載内容に沿うものであるが、これが右(二)のとおり採用することができない以上、右供述部分も、同様の理由によつて、これを採用することができない。

(四)  もつとも、原告代表者中野恭一作成部分は成立に争いがなく、その余の部分は被告本人兼被告会社代表者勝家章尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第四号証には、「終了後甲(注・中野)は乙(注・被告勝家)にすべての権利を譲渡する」との記載部分があることが認められる。しかしながら、前掲乙第四号証及び原告代表者中野恭一尋問の結果によれば、中野は、昭和六三年二月頃、被告勝家に対し、被告会社が本件許諾契約に基づく使用料及び米国アイアムズ社のペツトフードの輸入販売に伴う手数料を原告に支払い、また、被告勝家が五年内に原告の有する被告会社の株式二〇〇株を買い受けるとともに、原告が、右根抵当権及び同被告及びその妻が共有する東京都豊島区北大塚所在の建物について、原告の第一相互銀行に対する債務を担保するために設定されている極度額一〇〇〇万円及び一五〇〇万円の各根抵当権を消滅させるのと引き換えに、原告が銀行から新たに融資を受けるために、東京都町田市成瀬台所在の土地建物について、銀行のため極度額を一億円を超えない限度とする根抵当権を設定するよう提案したこと(乙第四号証は、右提案の要旨を記載したメモである。)、中野は、右提案とともに、被告勝家が右提案に係る事項を受け容れてこれをすべて完了したときには、同被告の努力を認めて、その時点で、被告会社に対し、本件商標権及び米国アイアムズ社のペツトフードの輸入販売権を無償で譲渡することを考慮してもよいと考え、乙第四号証の末尾に「終了後甲は乙にすべての権利を譲渡する」と記載したものであることが認められ、右認定の事実によれば、前掲乙第四号証の右記載部分をもつて、抗弁3(一)の事実を認めるには足りないというべきである。

(五)  右(二)、(三)のとおり、抗弁3(一)の事実に符合する乙第五号証及び被告本人兼被告会社代表者勝家章の前記供述部分は、いずれもこれを採用することはできず、また、前掲乙第四号証の前記記載部分も、これをもつて、抗弁3(一)の事実を認めるには足りないものであり、他に抗弁3(一)の事実を認めるに足りる証拠もない。

(六)  そうすると、抗弁3は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

5  したがつて、原告の第一事件の請求は、すべて理由がある。

二  第二事件について

前一2のとおり、本件譲渡契約が成立しなかつたことが認められるのであるから、被告会社の第二事件の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三  第三事件について

1  被告勝家の請求について

(一)  前一2のとおり、本件譲渡契約が成立しなかつたことが認められるのであるから、請求の原因1(一)は、理由がない。

(二)  また、請求の原因1(二)について判断するに、乙第五号証は、請求の原因1(二)(1)の事実に符合するものであり、また、被告本人兼被告会社代表者勝家章の尋問の結果中にも、右事実に符合する供述部分があるが、乙第五号証は、前一4(二)に認定判断したとおり、真正に成立したものと認めることはできないから、これを採用することができず、また、被告本人兼被告会社代表者勝家章尋問の右供述部分も、同号証の記載内容に沿うものであつて、同号証を採用することができない以上、同様の理由によつて、採用することができない。もつとも、前一4(四)で認定した事実によれば、中野は、昭和六三年二月頃、被告勝家に対し、五年内に原告の有する被告会社の株式二〇〇株を買い受けるよう提案したことは認められるけれども、右事実のみをもつては、請求の原因1(二)(1)の事実を認めるには足りず、他に請求の原因1(二)(1)の事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、請求の原因1(二)は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(三)  したがつて、被告勝家の第三事件の請求は、理由がない。

2  被告会社の請求について

(一)  請求の原因2(一)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一三号証の二によれば、昭和六三年四月二六日付五四〇〇万円の貸金債務の弁済期は、同六五年(平成二年)八月三一日であり、また、昭和六三年四月三〇日付二億四八七〇万円の貸金債務の弁済期は、同六四年(平成は元年)一月二七日であることが認められる。

(二)  請求の原因2(二)の事実は当事者間に争いがない。

(三)(1)  成立に争いのない乙第一五号証及び被告本人兼被告会社代表者勝家章の尋問の結果によれば、被告勝家が、昭和六三年九月八日、第一相互銀行に対し、本件保証債務の履行として合計九七〇〇万円を支払つたことが認められるけれども、請求の原因2(三)(1)のその余の事実を認めるに足りる証拠はない。

(2)  請求の原因2(三)(2)の事実は当事者間に争いがない。

(四)  請求の原因2(四)の事実はこれを認めるに足りる証拠はない。

(五)  請求の原因2(五)の事実のうち、被告勝家が、原告に対し、同月二四日に到達した書面によつて、譲渡の通知をしたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第一六号証の一、被告本人兼被告会社代表者勝家章の尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二七号証及び弁論の全趣旨によれば、その余の事実が認められ、右認定の事実に右(三)(2)の事実によれば、被告勝家は、昭和六三年九月九日、被告会社に対し、被告勝家が、昭和六三年九月八日に第一相互銀行に対して本件保証債務の履行として合計九七〇〇万円を支払つたことに基づき、右九七〇〇万円が前(一)の原告の同銀行に対する貸金債務の弁済に充当されることにより取得する事後求償権合計九七〇〇万円のうち八五〇〇万円を譲渡したものであることが認められる。

(六)  請求の原因2(六)の事実及び第三事件の訴状が平成元年二月二三日に原告に送達されたことは、記録上明らかである。

(七)  右(三)(2)の当事者間に争いのない事実によると、被告勝家が、第一相互銀行に対して保証債務の履行として支払つた合計九七〇〇万円は、平成元年四月二八日、昭和六三年四月二六日付五四〇〇万円の貸金債務の元本全部及び同月三〇日付二億四八七〇万円の貸金債務の元本のうち四三〇〇万円の弁済に充当されたのであるから、このときに原告に対する求償権が発生する。そして、右(一)で認定した事実によると、同月二六日付五四〇〇万円の貸金債務の弁済期は、平成二年八月三一日であり、また、昭和六三年四月三〇日付二億四八七〇万円の貸金債務の弁済期は、同六四年(平成元年)一月二七日であるところ、原告は、右(四)のとおり、被告勝家が、第一相互銀行に対し、本件保証債務の履行として合計九七〇〇万円を弁済することを承諾したことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告会社が譲り受けた八五〇〇万円の求償権は、右二つの貸金債務のどの部分についてのものであるか、また、被告会社が請求する三七〇〇万円の求償権は、更にその中のどの部分であるかを認めるに足りる証拠はないから、結局、被告会社は、右の弁済期が遅い方の貸金債務の弁済期が到来した平成二年八月三一日以降において、原告に対し、被告勝家から譲り受けた九七〇〇万円のうち八五〇〇万円の全部について求償権を行使することができるものというほかはない。ところで、右(六)で認定した事実によると、被告会社は、原告に対し、第三事件の訴状の送達によつて、右求償権八五〇〇万円のうちの三七〇〇万円を支払うよう催告したのであるが、右催告当時には右九七〇〇万円が主たる債務の弁済に充当されていないから、右求償権は発生していないことになる。しかしながら、被告会社は、右求償権八五〇〇万円のうちの三七〇〇万円の支払いを求める第三事件の訴訟を継続維持しているのであつて、このような場合には、被告会社は、右支払いの催告を黙示的、継続的にしているものと解することができるから、右求償権が発生し、かつ、その全部について求償権を行使をすることができるようになつた日である平成二年八月三一日に右支払いの催告の効力が生じたものと解するのが相当である。―なお、このような場合に、被告会社が、右支払いの催告の効力が生じた後に、口頭弁論期日又は期日外において、別個に支払いの催告をすることは、必ずしも必要ではないと解される。そうすると、被告会社は、原告に対し、三七〇〇万円とこれに対する右支払いの催告の効力が生じた日の翌日である同年九月一日からの遅延損害金の支払いを求めることができるものというべきである。なお、被告会社は、商事法定利率による遅延損害金の支払いを請求している。ところで、保証人自身は商人でなくとも、保証行為が商人である主たる債務者の委託に基づくものであれば、その保証委託行為が主たる債務者の営業のためにするものと推定される結果、保証委託契約の当事者双方に商法の規定が適用され、保証人が保証債務の弁済により主たる債務者に対して取得する求償権は、商法五一四条の規定にいう「商行為ニ因リテ生シタル」債権に当たるものと解するのが相当である。ところが、これを本件についてみると、被告勝家が商人であるとの主張立証はなく、かつ、同被告の本件保証行為が商人である主たる債務者原告の委託に基づくものであるとの主張立証もないから、同被告が原告に対して取得した求償権は、「商行為ニ因リテ生シタル」債権に当たるとは認められない。そうすると、被告会社は、原告に対し、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができるにとどまるものである。

したがつて、被告会社の第三事件の請求は、三七〇〇万円及びこれに対する支払いを催告した日の翌日である平成二年九月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

四  よつて、原告の第一事件の請求並びに被告会社の第三事件の請求中、三七〇〇万円及びこれに対する平成二年九月一日から支私済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は、いずれも理由があるから、これを認容し、被告会社の第二事件の反訴請求及び第三事件のその余の請求並びに被告勝家の第三事件の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、仮執行の宣言について同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する.

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 宍戸充 裁判官 高野輝久)

目録(一)

登録番号 第一四二六〇六六号

出願 昭和四九年九月一八日

公告 昭和五四年一二月四日

登録 昭和五五年七月三一日

商品の区分 第一九類

指定商品 犬の首輪、犬の胴輪、その他本類に属する商品

商標

<省略>

目録(二)

<省略>

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